キーンコーンカーンコーン♪
授業終了のチャイムが鳴り、帰る生徒たちの声で少しにぎやかになる。
階段を下りながら、ふと思い出したように隣にいる人物に話しかける。
「あ、手塚。私今日は部活出ないから。」
「…わかった。」
「じゃ、明日ね。」
相変わらず仏頂面な手塚と別れて玄関へ向かう。
上靴から外靴に履き替えていると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あれ?ー?」
振り返ると、思った通りの姿があった。通称 でこぼコンビ (菊丸命名)、乾との姿が。
毎回思うんだけど、なんてアンバランスな2人なんだろう。身長が違いすぎる。
乾が184cmで、は確か…150cmいってないんだよね。この前1cm縮んだーとか言ってたし。
その差30cm以上。…そりゃ、毎回親子に間違われるわけだ。思わず納得してしまう。
「これから部活ー?」
「いや、今日は帰るよ。そっちこそこれから?」
返答をに返し、乾に話しかける。
に聞くと毎回間延びした声で事の始まりからのろのろ説明するので、スパッと結論のみ欲しい時は乾に聞くようにしてる。
3年間でコイツらについて学んだ学習の成果だ。
「俺は部活だけど、は違うよ。今日はまっすぐ帰るそうだ。」
「ー、帰るなら一緒に帰ろー?」
「別にいいけど。」
私がそう言うと、はやったー、と嬉しそうにパタパタと自分の靴箱まで行って靴を履き替えて来た。
「じゃーねー乾ー。」
「ああ、また明日。」
挨拶と同時に、2人はお互い頬にキスしあう。
なんでも2人曰く『お別れのチュー』らしい。
やり始めた当初は思わず引き剥がしてたけど、こうも毎日やられてたら止める気すら失せてしまった。
慣れって恐ろしい…。
こいつら、まわりに誰がいようが関係ないからなー。いちいち付き合ってるとこっちの身が持たないよ。いやマジで。
そんなこんなで乾と別れて帰路についた私達は、の"今日出た数学の宿題一緒にやろー?"の言葉で今現在宅のの部屋にいる。
ある程度片付いて、一息入れようかと思い始めた頃、の部屋のドアが素早いノックと同時に開いた。
…普通はノックして返事を待ってから開くものだよね?
「君!いらっしゃ〜い!!vV」
「緑さん…。」
この無駄にハートマークを飛ばしている女の人は緑(みどり)さん。の姉だ。
現在若者からお年寄りまで幅広く人気のブランド 「KISS」&「Knife」 のデザイナー兼副社長で、私達より7つ上の22歳。
かっこいい人(男女問わず)が大好きで、見つけ次第口説かずにはいられないという癖(と本人は言っていた)を持っている。
実際私も最初の出会いで男の子に間違われ、危うく口説かれかけた。
そういえば、その頃から私「君」って呼ばれるようになったんだっけ。
もしかしてそれが原因だったのか?(←後で聞いてみたらYESだった…。
女の私が見ても緑さんは間違いなく美人の部類に入る。
仕草とかもとにかく色っぽい。
それに加え服までもが露出度の高いものばかりだ。
さぞかしモテるんだろうなー。
曰く、女子校育ちだから口説き慣れてるらしいし。
…ん?口説き慣れてる?
ってまさか緑さん、あなた女子生徒を口説いたりしてませんでしたよね?
「、宿題は終わったの?」
そんな、ふと頭に浮かんだ疑問に気付くわけもなく 緑さんはに聞く。
「ん、終わったよー。」
「あら!じゃあ一緒にお茶でも飲みましょうよ!君も!」
「ねーー、昨日配られたコレなんて書いたー?」
突如お茶会に突入した私達。
緑さんの用意してくれた紅茶を飲みながら(は飲めないからジュースだけど)くつろいでいると、
が鞄からB5のプリントを取り出した。
「ん?…ああ、『進路希望調査』ね。高等部に進学って書いただけだけど?」
配られた瞬間に書いたよ。
なんでこんなめんどくさいもん学校はやりたがるんだか。
別にどーでもいいじゃん。
「その下はー?」
「下?ああ、『将来についてもできるだけ詳しく書きなさい』って欄?特に何も
「――!!」
ガチャッ!バタンッ!!
突然ドアが開いて乱暴に閉じられたと思ったら、次の瞬間にはをギューっと抱きしめている翔太さんの姿があった。
「ー!お兄ちゃん今帰ったぞー!もうに会いたくて会いたくて急いで帰ってきたんだ!!」
「お、おかえり…。」
「今日は学校どうだった!?まさか変な奴らに襲われてなんかいないよな!?もうお兄ちゃんそれが心配で…!!」
「お兄ちゃん、く、苦しい…。」
えー…。
いま、を抱きしめている彼が翔太(しょうた)さん。10歳上の25歳で家の長男。
緑さんと同じように「KISS」&「Knife」の経理兼社長だ。
まあ、正確に言えば女性専門の「KISS」と男性専門の「Knife」に別れるから、それぞれがそれぞれの社長ってことになるんだけどね。
ちなみに、私と彼らの妹のと緑さんに気に入られた乾の3人は、この「KISS」&「Knife」のモデルのバイトなんかやっている。
といってもまだ中学生なわけだから、バレないようにいろいろと工夫してるけど。
「KISS」は私とと社長(緑さんのほうね)本人自らが、「Knife」の方は乾と男装した私が、それぞれモデルを担当している。
何で私が男性専門の「Knife」の方までやっているかって言えば…緑さんにどうしてもってせがまれたからだ。
一回遊びで「Knife」の方に男装して写ってみたら、それがえらく気に入ったらしい。
…ほんとに男が好きなんだから。はぁ…。
おっと、話がずれたね。翔太さんの話だっけ。
彼は…見て判るとおり「超」がつくほど妹を溺愛中。たぶん一生このままだろう。
同じ妹の緑さんにはそうでもないのに、末っ子のにはかなりのシスコンぶりを発揮している。
まあ、見てて面白いからいいんだけどさ。慣れれば気にならないし。
じっとしてればかっこいいのにねー。妹を前にするとどうしてもじっとしてられないみたいなのよ。
「お邪魔してます。翔太さん。」
いつ見ても大きすぎる愛をぶつける翔太さんに笑いながら声をかける。
そろそろ離さないとほんとにが危なそうだしね。
「くん。ひさしぶりだね。いらっしゃい。」
対する翔太さんは、今までくっついていたから素早く腕を離しその場に正座をして綺麗に微笑んだ。
…相変わらずみごとな変わり身。
「もう、翔ちゃんったら。スーツが皺になっちゃうでしょ。早く着替えてきたら?」
「ああ、じゃあそうするよ。君、ごゆっくり。」
そう言って翔太さんはさっさと退場した。
たぶん、私がいたからだろうなー。普段なら絶対に引っ付いて離れないもの。
「相変わらずねー。翔太さんも。」
「翔ちゃんだものv」
いや緑さん、それわけわかんないですよ。
「ねー、結局なんて書いたのー?」
が、小さい子供が母親に話をせがむように聞いてきた。
ああ、そういえば翔太さんの乱入で話が途中になってたね。
それにしても、あんた翔太さんの「アレ」に全然動じないのね。
やっぱり慣れかしら?
「別に何も書いてないよ。そんな将来の事なんて全然わかんないし。」
「だよねー。」
あたしも書いてないんだー、とはいつもの笑顔で言った。
と、ここで緑さんがある決定的な一言を発した。
そう、この一言がなければ私の人生がまったく違ったものになったであろう一言を。
「あら!だったらウチの専属モデルになればいいじゃない!」
「「……え?」」
「君だったらバッチリ売れると思うわ〜!なんたってこんな格好いいんだからvお給料もいっぱいだしてあげる!
あ、は駄目よ。は乾君と結婚するんだから。あ!ということは、私が乾君のお姉さんになるのね!いやーん!素敵ー!!」
一人はしゃぐ緑さん。
うっとりしたと思ったら突然顔をパッと明るくさせたり体全体を使って喜んだり、と忙しく表情を変化させる。
と思ったらまた一巡し出したぞ!?なんだこれは!エンドレスなのか!?ねえ、緑さん!エンドレスなんですか!?
「み、緑さん…?」
「キャー!私ったらどうしましょー!あ、でもここはやっぱり!はぁ〜(←うっとりとしたため息)…す・て・き・v」
駄目だ、放っておこう。
「ねぇ、。今緑さんが言ったこと、もうすでに決定済みなわけ?」
緑さんに話しかけるのを断念、というかもう放置して、同じく緑さんの発言に驚いていたに、事の真偽を訪ねる。
特に2人の結婚の部分。なに、もうそこまで話が進んでるの?
「さぁ〜?」
対するの反応はこれだけ。あとはのんきにジュースを飲むだけだ。
おいおい、自分のことでしょうが。
「だってお姉ちゃんがいきなり突拍子もないこと言うのはいつものことだもんー。」
いや、確かにね、それはそうだ。いつものことだ。
だけどね!その突拍子もないことを素晴らしき行動力で実行しちゃうのもいつものことなんだよ!
「お姉ちゃんだし。」
この姉妹は揃って同じようなことを…!
「えへへー。」
「……。」
はぁ、なんだかのその和やか〜な笑顔見てると、もうどうでも良くなってくるわ。
…人はこれを諦めと言うんでしょうけどね。
「…はぁ。」
「えへー。」
私は疲れた笑みを、はのほほんとした笑みをそれぞれ浮かべ、またお茶会を再開した。
2人共、進路決定…?
※「KISS」&「Knife」の説明。
「KISS」は婦人もののファッションブランド。
20代〜のフォーマル、カジュアル、軽いゴスロリ(緑の趣味)等々、幅広く展開中。
最近は10代向けも始め、人気を博している。
アクセサリー、バック、靴なども取り扱っている。
「Knife」は男性向けのファッションブランド。
こちらもフォーマルからカジュアルまで、色々なシーンに対応できる。
基本的に翔太の趣味が反映されるので黒や白を基調とした落ち着いた感じの物が多い。
近々ちょっとした家具や椅子などにも手を出す予定。
こちらもアクセサリー、時計、バックなども取り扱っている。
2つのブランドを束ねるのがK&Kカンパニーという会社で、カタログはこの会社から出ている。
しかし、本社ビルがどこにあるのかは不明。(←確認してみたら『そんなものないよ。(翔太)』との事
また、会社に関することも全て謎に包まれている。