現在の時間は午前11時40分。
あの「ゲーム」が始まってからもう3時間近くは経っている。
今いる場所は、地図で言えば…G-5のエリアだ。
ここら一帯は元住宅地なのかまわりにたくさんの家が建っている。
私達はその中の1つの家に勝手にあがらせてもらった。
どうせもう住人はいないから、誰に咎められることもない。
カチカチ…ボッ
キュッ…ジャー…
「驚いた。ここの家、ガスも水道も止まってないんだ。」
「見て〜。缶詰発見したの〜。」
私がリビングに入ってくると同時に、が両手いっぱいの缶詰を持って走ってきた。
…たく、相変わらずのんきなんだから。
「みかんにー、パインにー、コーンにー、見て!パンまで缶詰になってる!」
「はいはい。ご苦労様。じゃあ、それら全部鞄につめといて。」
私は電気のスイッチをつけながらの方を見ずに言った。
パチッ…パッ
へー、電気までつくんだ。ほんとに何もしないうちに全員追い出されたようね。
「…盗むの?」
「え?」
振り返ればが缶詰を持ったまま複雑な顔をしていた。
…そっか。にはまだ理解できてないのか。
この「ゲーム」のことも、今の状況のことも…。
「あのね、。私達の鞄の中見た?とてもじゃないけど必要最小限の食料しかないの。」
「でも盗むのは…。」
「ここの家の人はもういない。政府によって追い出されたの。だからここに置いてある物はもう誰の物でもなくなった。
私達には今食料が必要なの。だったら、…わかるでしょ?」
「…ん。」
しぶしぶ鞄に缶詰をつめていく。
…ちょっと言い方きつかったかな?
人の物を盗むのはいけないこと。
それは道徳としてみんな知ってる。
いくらここの住人が置いていった物だとしても、元はその人達が手に入れた物だ。
の言いたいこともわかる。
でもね。
もうそんな平穏なこと言ってられる状況じゃなくなったの。
<ゲーム>はもう始まってしまったんだから。
参加する人がいるとは思わないけど、何があるかはわからない。
もしかしたら政府が動くかもしれないし。
私は自分の首に付けられた首輪をつかむ。
「爆破装置…か。」
「え?」
ポツリと呟いた私の声にが手を止め振り返った。
「何か言った?」
きょとんとした顔で聞いてくる。
どうやら何を言ったかまでは聞かれてないらしい。
「何でもないよ。ちょっと疲れたなって。」
早く鞄につめちゃいな、とに作業を促してそれとなくごまかす。
「ん。」
素直に信じて、また鞄につめるのを再開する。
ほんとごまかされやすい奴。
素直なのもどうかと思うけどね。
ま、それがのいいとこって言えばそれまでか。
ピンポンパンポーン♪
「!?」
突然の音に驚いてあたりを見回す。
今の音って…放送開始の音?
ハッと思い出す。
『3時間ごとに放送で、その時間までに死んだ奴の名前と危険エリアの場所と時間を発表するよ。』
そうだ。確か竜崎先生はそう言っていた。
じゃあこれがその放送?
『午後12時、ゲーム開始から最初の放送を始めるよ。』
「やっぱり…。」
「。」
が心配そうな目で見てくる。
「大丈夫。ちょっと静かにしてて。」
私はの頭にぽんっと手を置いてから、自分の鞄から地図やペンを取り出した。
『現在までに死んだ者は…。』
私は思わず目を瞑った。
どうか、誰も死んでいませんように…!
ペンを持つ手が震える。
『…誰もいない。』
ほっ…。
安堵のため息を吐く。
良かった。
『なんだいあんた達。もっとしっかり殺しあいをしてくれなきゃ困るね。まあいい。
次に危険エリアの発表だ。午後12時40分H-3。午後1時ちょうどに…。』
私は急いで地図に危険エリアを書き込んでいく。
決められた時間を過ぎてからここに入ったら…。
私はまた首輪にそっと触れた。
『…以上だ。いいかい次の放送までにはしっかり殺しあいを始めるんだよ。
もっとも、そうしなきゃ生き延びられないと、あんた達はすぐに知ることになるだろうけどね。』
ピンポンパンポーン♪
「竜崎先生…。」
が悲しそうな目をして俯いた。
私は地図やペンを鞄にしまう。
良かった。ここは危険エリアに入ってない。
「。あんたは気にしなくてもいいよ。誰も殺しあいなんかしないから。そんなこと望んでない。」
「…ほんと?」
「ほんとに。だってあいつらともう何年付き合ってんの?あいつらがそんなことするわけないでしょ。」
そう、殺しあいなんて、するはずがない。
みんなだってしたくないと思ってるはずだ。
「そうだね。」
納得したのか笑顔になる。
「そうそう。あんたは乾や他のみんなの無事を祈ってなさい。」
「ん。」
缶詰つめ終わったよ、と嬉しそうに言ってからはソファに座った。
「ありがと。」
私は笑顔を向けてからの隣に座った。
「ねえ…。これから、どうしようか?」
家に置いてあったペットボトルのお茶を勝手に貰って飲んでいたら、隣でが問いかけてきた。
見ると、お茶は全然減ってなかった。
ただ両手でしっかりと持っているだけだ。
私はもう一口お茶を飲んでから、の方を見ずに言う。
「さあ…。どうしようか。いや、どうなるんだろうね。」
「ねえ、…。なんでこんなことになったの?なんであたし達武器なんて持たされてるの?
なんでこの島に連れて来られたの? 竜崎先生は…変なこと言う…し…。」
の珍しい早口に驚いて振り向くと、は自分の鞄から鞘に収められた短剣を取り出していた。
そう、に与えられた武器は短剣だ。
こんなゲームだからどうせたいしたものではない、と思ってたが、
の短剣は意外にもそれなりの値打ちはありそうな、綺麗な短剣だった。
はその短剣を握りしめながら、今にも泣き出しそうな顔をしていた。
――…ちょっとまずいな。情緒不安定気味だ。まずは落ち着かせないと。
私はそう思いにお茶を飲むように言った。
の持ってるお茶を取り上げ、フタを開けてからに手渡す。
最初は受け取ったまま口を付けようとしなかったけど、私がもう一度促すとゴクゴクと勢いよく飲み出した。
一気に半分くらい飲んでからはペットボトルを下ろした。
ふぅ…と一息ついている。
もう瞳に涙は溜まっていないのを確認してから私は話しかける。
「落ち着いた?」
「…ん。ごめんね。」
かすかに笑って顔を上げる。
どうやらほんとに落ち着いたようだ。
「ねえ。これからどうするの?」
さっきと同じ質問をしてくる。
「…わからないけど、私は生きるよ。生きて帰って、必ずあいつとの約束を果たす。」
「あいつ?」
「手塚国光。」
私がその名を言うと、の目が少し見開いた。
手塚国光。
今回のこのゲームに彼は参加していない。
なぜなら、彼は今日本にはいないからだ。
約1年前、高校を中退してアメリカに渡った。
向こうでプロテニスプレイヤーを目指すと言っていた。
そして越前も、その少し後に手塚を追うようにアメリカへ行った。
越前も将来はプロテニスプレイヤーになるつもりらしい。
始めはそんなに早く行くのかと思ったりもしたが、今ではその選択が正しかったと思う。
だって、あいつらは早くにアメリカに渡ったからこそ、このゲームの参加を免れた。
もし少しでも向こうに行くのが遅かったら、あいつらも絶対このゲームに参加していた。
中退するまで手塚はテニス部にいたし、越前だってテニス部に入るつもりでいたんだから。
そう考えると、ほんと良かったって思う。
あいつらが助かって。
「約束って何の?」
が聞いてくる。
「…あいつがね、中退する前に私に言ったの。『青学の生徒達を頼む。』って。」
屋上に呼び出されて、アメリカに行くことを告げられて、そして自分がいなくなった後、私に生徒会長になってくれって言って。
「普通そんなことまで考えないよね。ほんっと固い奴なんだから。」
「手塚らしいね。」
お互い顔を見合わせてクスッと笑う。
「だから私は、卒業するまできっちり約束を果たそうと思ってるの。頼られちゃったからね。やるしかないでしょう。」
だから私は生きて帰るよ、とに向かって言った。
「は?これからどうしたい?」
「あたしは…。」
聞くとちょっと俯いた。
でもすぐに顔を上げて、
「あたし、乾に会いたい。会って一緒に生きて帰りたい。」
と笑顔で言った。
その答えに私は満足する。
このゲームでは何より生きたいって思いが必要だと思うから。
じゃなきゃ生きてはいけないと思う。
生きることを諦めて自ら死を選ぶなんてこと、にさせたくないし、私もしたくない。
だから彼女の≪生きたい≫という思いに私はホッとした。
「だったら、私があんたを守ってあげる。そして生きてみんなで帰ろう?」
「うん!」
が首を大きく縦に振った。
「あ、そうだ。」
はい、と何を思ったのか手に持っていた短剣を私に差し出した。
私はそれを受け取らずに、目だけでどういうつもりなのかを聞いた。
「あのね、これ、に持っててもらいたいんだ。あたし絶対これ使えないと思うし。が持ってたほうがいいと思うんだ。」
なら、いろいろとうまく役立ててくれると思うから。
そう言っては私の手の上に短剣をのせた。
私はしばらくその短剣を無言で眺める。
…確かに、武器は多い方が何かあった時有利だ。
私がを守るんだから、私が持っていた方がいい。
それに、が持ってた場合、もし何かあったらがこの剣で誰かを傷つけることになるかもしれない。
そんなことはさせたくない。
の手は、汚させない。
「わかった。ありがと。借りるね。」
私は、短剣を受け取った。
目の前で微笑む、この小さな親友を守るために。
それからはお互い何も言わずにただ座っていた。
手に持っていたお茶も、もう全部飲んでしまった。
これからどうしようかボーッと考えていたら、ふと隣のが目に入った。
そうだ。を少し休ませた方がいいかもしれない。
もともと彼女は体力がそんなにない方だ。
ゲームが始まっている以上、何が起こるかわからない。
だから休める時は休んでおいた方がいい。
時間は…今12時55分だから、あと2時間くらいは寝ることができる。
その間に何もなければの話だけど。
「、次の放送まで時間があるから、少し休んどきな。」
「は?」
「私は見張っとくよ。一応念のためにね。」
私がそういうと、
「じゃああたしも寝ない。に見張りをさせて自分だけ寝るなんてヤだもん。」
と即座に言ってきた。
…そういうと思った。
「いいから、寝・な・さ・い・!」
の鞄から薄い毛布みたいなのを取り出して、に少々強引にかける。
そして有無を言わせず横にならせる。
「…ん。」
私の強い口調に押されたのか、は少し口を尖らせながらも了解した。
が寝て1時間くらい経っただろうか?
今のところまだ何も起きてはいない。
一応家の外にはカラスに似せた式神を何匹か見張りにつけさせて、誰か近づいてきてもすぐにわかるようにしている。
でも、誰が近づいてきても絶対攻撃してはいけないと命じた。
ただ、報告だけすればいいと。
誰も傷つけたくないから…。
『そうしなきゃ生き延びられないと、あんた達はすぐに知ることになるだろうけどね。』
先ほどの先生の言葉が頭から離れない。
そうしなきゃ生き延びられない?
殺しあいなんてすれば余計に生き延びられないじゃないか。
『生きてここから出られるのは一人だけ。もし時間が経っても二人以上残っていた場合、その首の爆破装置を全員分作動させるよ。』
だから早く殺しあいをして生き残れってこと?
ふざけないでよ。
そんなこと、できるわけないでしょ!
あいつらは、大切な友達でライバルで、仲間なんだから…。
「それでも、やらなくちゃいけないの…?」
生き残るためには。
から受け取った短剣を強く握る。
そして寝ているの方に目を向ける。
…。
自分の武器を、私を信頼して渡してくれたんだから、私はそれに応えなきゃいけない。
何があっても、を守るんだ。
『んと、初めまして。です。』
会ったばかりの頃、そう言ってペコリと頭を下げた。
『うわー。ってすごいねー。』
最初のテストで満点を取って学年で一位だと名前が載った時、笑顔で私におめでとー!と拍手をしてくれた。
『今日家に泊まりにおいでよ。』
私が親がいなくて一人暮らしをしていると知った時から、何度も何度も誘ってくれた。
暖かく迎えてくれたの家族。
自分に光を与えてくれたこの少女を、今度は私が守ってみせる。
傷つけさせない、手を汚させない。
私の大切な親友、を。絶対に。
―――――
実は三月から預かってたものです(死
長らくアタシのPCの中で眠っておりました。
…表舞台出せてよかった…。(お前な…
話的には本編より少し前ですね。
の決意、と言いましょうか。
この中のと手塚の話がSIDE STORY2話目に続きます。
そちらもゼヒどうぞ。
KAMIJO Satsuki(後書担当←あまり今回仕事してません(笑))